2016年11月6日日曜日

【展示作品について】
被写体はすべて、アシュタンガヨガ正式指導者の更科有哉(さらしな ゆうや)さんです。アシュタンガヨガというのは、始まりから終わりまでのアーサナ(ヨガの座法や体位のこと。いわゆるポーズ)や呼吸の順番が決まっている、比較的運動量の多いヨガのことです。
 有哉さんはほぼ毎年、インドのマイソールというアシュタンガヨガの聖地に修行に行っています。期間は2~3ヶ月と聞いています。今年、僕もその修行が終わるのに合わせてマイソールを訪ねました。そこから約1ヶ月をかけて二人でインドのいろいろな場所を旅しながら、各地でアーサナの撮影をしたり太陽礼拝の動画を撮ったりしました。これらは、その旅で撮影したものです。
Ekapada Bakasanaというアーサナです。これを撮ったのはプシュカルというインド北西部の町で、ブラフマーという創造神をまつっているヒンズー教の聖地です。町の真ん中にはプシュカル湖という湖があって、その周りをガート(沐浴や洗濯のために水場におりる階段)が囲んでいます。
 このときは撮影目的という訳でもなく、散策しながらここでこういうのが良いかもねって言っていました。ガートを巡りながら景色が良いところで目星をつけて翌日撮ったり、いきなり撮ったりでした。ここでも、Ekapada Bakasana以外にいくつか撮りましたが、この場所ではこのアーサナが一番きれいかもねっていう話になりました。
有哉さんとの撮影は、特別な場所ばかりではありませんでした。これは有哉さんが修行に行っていたマイソールの路上です。ブーゲンビリアの花がきれいだったので、それを入れて撮ろうとしたら、僕は片側2車線の道路の中央分離帯まで離れることになってしまいました。このときは動画も撮っていましたが、動画には道路を走るバイクや歩道を歩く人、牛などが映り込んでいます。本当に、インドの人たちが生活している中で撮影した写真も多かったです。
 明らかにヨガをしているので好奇の目で見られましたが、特に人が寄ってきたりすることもありませんでした。撮影中、カメラに気づいてごめんごめんという感じで、急いで避けてくれる人もいました。アーサナはKaundinyasanaです。
インド北西部のジョードブルという町は「ブルーシティ」と呼ばれるくらい、町が青一色なんです。その町の中心に、地下に続く回廊のような「階段井戸」があります。とても古いもので、昔はそれが飲み水の供給源だったそうですが、今ではお祭りの時に花を捧げたり、子供たちが水遊びをする場所になっています。水面の波紋は、フレームの奥で子供たちが水に飛び込んでいる、そのしぶきです。
 このChakorasanaというアーサナを撮りたかったんですが、それにぴったりの場所がなかなか見つかっていませんでした。階段井戸はたまたま宿泊した宿の目の前だったんですが、前日に下見をしたとき、ここでこのポーズを撮ろうという話になりました。
 形がすごいので、それを見せたくて横から撮ることも考えましたが、やはりこの目線を撮りたかったんです。まっすぐつま先を見てる目を、しっかり撮る。そのためには、足場の悪い階段から、半分身を乗り出しての撮影になりましたが、とてもインパクトのある写真にできたと思っています。
これもジョードプルの階段井戸です。Chakorasanaを撮った後、他にも何か撮れないかと思ってたときに、祠のようなものを見つけました。階段も上下左右が対象になっていたので、おもしろい背景の写真が撮れそうな気がしたんです。ここは静かなポーズの方が良いと思って有哉さんに話すと、Padamasana・蓮の花のポーズをとってくれました。
有哉さんは、ヨガに関しては、とてもストイックな人です。
 撮影の現場では、人間離れした形を軽々とやって見せるんです。もちろん何分間もやっているわけではないですけど、落ち着いて写真を撮る間くらいは止まっていてくれます。撮影の時はいつも、足の角度はどうか、ここはもっと上げた方が良いのか、下げた方がきれいなのか、気になるところは全部指示を出してほしいと言います。このものすごいポーズのさなか、そういう細かい動きをまだ追いかけるのかと思って、謙虚さと探究心と熱意とに驚かされます。
■磯畑弘樹(いそはた ひろき)
1982年、鹿児島出身。デザイン会社に勤めたのち写真の魅力に惹かれフリーのフォトグラファーに転身。国内外を旅しながら作品を撮りためている。
現在発売中の「mark 07」(アルティコ)の「カラダがつくるココロ」では、10ページもの更科有哉さんの記事に写真を提供。
http://hirokiisohata.com